遣唐使の加拉巴(Jakarta)漂流記

と或る日系企業の管理畑で働いている田舎者が、遣唐使として中国に派遣された後、今度は東南アジア・インドネシアに派遣されたお話です。日々気づいたことをレポートします。内容については十分確認をとっていますが、あくまで筆者の主観によるものであり、また、正確さについて担保するものでないことは十分ご承知おきください。

訪問調査というもの

与信管理という仕事柄、よく訪問調査にいく。職責上、求められていることでもあるし、会社でずっと座って仕事しているのがあまり性に合わないのもある。

今回の訪問調査は、プラスチックのコンバーター屋2社で、ともにナイロンフィルムや合成樹脂を購入して、洗剤・食品のパウチを製造し、メーカーに販売する会社である。

当地は、土地・建物・設備の資産価値が日本の半分以下で、かなりアセットライトに見えるのだが、訪問してみると、え、結構でかいじゃん、という工場が結構多い。そういうわけで、実際に見て、会社としてきちんとしているのか、信頼に足るのかをチェックすることはかなり大事だと思っている。


1社目は、創業10年くらいの、小規模業社で、日系企業で働いていた現地技術者が定年後に作った会社らしい。社長は、創業者の知人の息子で、40歳ごろと若いし、まだ青い(良くも悪くも、中小企業の二代目若社長、という印象)。かなりの小規模企業であり、普通なら与信はしないところだが、日系企業からの技術支援サポートを受けており、なかなかにご綺麗にしている。当該企業からの側面情報も必要だが、Secureされているので良し、という感じ。


もう1社は、設立20年、創業者が以前経営している、日本でいうところの中規模企業である。ただ、この創業者がかなりのやり手で、アジア通貨危機で国中が打たれているときに逆張りで事業を開始するなど、商魂逞しい華僑である。御歳70は超えているが、面談に際し、かなりのプレッシャーを感じ、これまで行ってきた訪問調査で、最もたじろぐ結果になってしまった(実際に、言いたかったけど聞けなかった質問もある。部下の手前、反省すべきポイントである)。工場の中身はコロナの規制等もありあまり見学できなかったけれど、オフィスや敷地内の整頓状況からするに、オペレーションは全く問題ないだろうと思う。


個社に関するコメントはさておき、全般的なことで今回気づいたことは2点。

①ビジネスモデルは同じでも、会社の成熟状況によってKPIが異なる

プラスチックのコンバーターは典型的な装置産業であり、KPIは下記の通り定義出来ると考える。

資産回転率 × 単位当たり利益率 = (期間(年)/ 製造サイクル × 歩留率) × (単位当たり売上高 - 単位当たりコスト)

後者の企業は、すでにオペレーションが完成している模様で、経営者は「回転率とコストカットが大事」とコメントしていたが、まさに製造サイクルの短期化による規模の最大化と、コスト削減による利益確保を目指している。シンプルに上記KPIを追いかけている印象。

一方で、前者の企業は、「日本人技術者による技術指導による品質向上」を当座の目標としており、特に今後輸出を伸ばそうとしている中では差別化という点で意義があるのだが、経営的観点から(特に会計・ファイナンス的観点から)は、少し不十分であるように思えた。会社が置かれている環境・ステージによって違うのだろうし、どちらも間違いとは言えないので、実行状況を見守っていくべきだろう。


こういった、ビジネスモデルやKPIからの分析は、従来のアセットベースな与信判断からするとふんわりしていてSecurityに欠ける気もするのだが、会社の経営状況の分析として、ビジネスモデルのコアを分析して、実情がそれにマッチしているのかを判断するのは、とても大事なのでは、とずっと思っている。

まだまだビジネスモデル分析と言えるレベルではなく、上記のKPIモデル仮説も、まだまだ浅いな、と思う。もっと会社の真の姿に迫れるような、切れ味のいい、それでいて、多面的な分析を出来る様になれば、と思う。


②訪問調査にもっと付加価値をつける必要がある

基本的には与信判断に際して行う訪問調査なので、その判断の根拠となる情報さえ掴めれば良いのだが、今はインドネシア人の性格的優しさで対応してもらっているけれど、向こうにあまりメリットがないように思う。銀行員が訪問時に経済情勢なんかをしゃべって、それなりのことを言ったりするように、もっと日頃から勉強して、話の引き出しを作らなければいけないのでは、とじんわり思った。

特に後者の企業は、かなりしっかりした会社であることもあり、「当然与信枠を増やしてくれるよね」くらいの強気なテンションなので、うがった質問や細かいことが聞きにくい。もちろん、それではダメなのだけど。そういう時に、政治(これはご法度か)や経済、世界情勢の話なんか出来ると、やっぱり総合商社の人はすごいね、また会って話聞きたいね、となるのかなと思う(実際、それぞれの会社に対して、結構弊社のビジネスを説明したり、ロシア・ウクライナ情勢の影響なんかを話したりした)。こういうスモールトークひとつでも、営業力になるのだろうなと、現法社長を見ていて思うし、これから他者を巻き込んで何かをやっていく、その中で「個人の力を持って相手を惹きつけていく」には、こういうのもあながち無視できないのだろうと思う。そういえば、社内のリサーチチームが、定期的にこういう情報を発信していたのを思い出した。今までは来たらポイしてたけど、今度から軽く読んでからポイするようにしようと思う。日経電子版のコピー文句もなんとなく理解できる気がする。

付加価値の付け方は本当に人それぞれで、夜の店の情報とかでもいいんだろけど、ポジジョン的に世界情勢と広範なビジネストレンドとかの方がいいような気がするので、まずはここから頑張ってみようと思う。普段の業務にもいい影響ありそうだし。


与信管理以外の気付きがあった訪問調査でした。